姫騎士隊長洗脳改造 第三章

第三章 奈落への誘い

 次の日の昼前頃――
「うーん……」
 ティーノは、新聞に目をとおしながら、イノセンシアの詰め所へ向かっていた。
(今日も見事につまらん記事ばかりだな……)
 トップ記事は、二日連続でサルヴァシオンが現れたというニュースだ。しかも、ストーリーは昨日と同じで見事な奴隷少女の救出劇……
 いろんな意味でつまらなかった。
 記事のつまらなさはもちろんのこと、サルヴァシオンなる連中が、好き放題に暴れているのも面白くない。
 ラビオスに奴隷を運び込む馬車や魔導車が、連中にやられる確率はそう高くない。しかし、その可能性があるというだけで、運び屋が萎縮してしまった。
 現実として、運び屋を引き受ける人間が激減し、奴隷が運び込まれる数は、サルヴァシオンが現れてから三分の一程度になっている。
 奴隷がいないと商売にならない改造屋としては、いつまでも見過ごせない。
(いずれは、なんとかしないとな……)
 そう思うティーノだが、まずは目の前の案件に集中しないといけない。
「……と」
 イノセンシアの詰め所が見えてきて、ティーノはあらためて気持ちを引き締めた。そして、事前にしてきた準備が問題ないか最後に確認してから建物の中に入る。
「失礼します……」
「あっ!」
 建物に入るなり、待ち構えていたイエマがティーノに近づいてきた。
「バレンティンさん、お待ちしてましたっ!」
「えっ?」
「っと、その、昨日は本当にご迷惑をおかけしました」
「い、いや……」
「そして、適切な処置をしていただきまして、本当にありがとうございました」
 満面の笑みを浮かべて深々と頭をさげるイエマ。いきなりの出迎えで、さすがに少し動揺したティーノだったが、疑われているわけではないとわかり、密かに安堵する。
「……その様子だと、後遺症は出てないみたいだな?」
「はいっ、おかげさまでっ!」
「よかった。それじゃ、隊長さんを呼んでもらえるかな?」
「あ、はい……」
 すーっとイエマの笑顔が消えていく。
「どうかした?」
「隊長、今日は体調不良でお休みしてるんです」
「……まさか、アレの影響が出てるとか?」
 イエマが抵抗なく会話が続けられるよう、媚薬のことを『アレ』と言い換えた。
 その意味を理解したイエマは、頬を赤くしながら口を開く。
「正直、わかりません。隊長は、疲れが見えるので、団長に休むよう命令されたと言ってましたが……」
「団長が……?」
「はい、隊長はここ半年ほど、まったく休んでいませんでしたから、それを団長が心配されて……」
「……なるほど」
 イエマからきわめて重要な話を聞き、ティーノは心の中でにんまりと笑う。
(半年休みなしなら、まとまった休暇は確実に取れるはずだ……)
 小躍りしてしまいそうな気分になるが、そんなものは一切表に出さず、話を続ける。
「でも、それだと隊長さん、今日は出てこられないってこと?」
「いえ、大丈夫です。直接応対したいので、あなたが来たら知らせるようにと隊長から言われてあります」
「ああ、だからきみはここで待ってたわけか」
「はい、そろそろお見えになると思いましたので」
「じゃあ、隊長さんを呼んできてもらえるかな?」
「わかりました。それではこちらへ……」
 イエマが先導する形で、ティーノを施設の中へ案内する。
 施設の廊下を歩きながら、ティーノははじめて見るイノセンシア中枢の内部を、興味津々で見回す。
(質素な建物だな……それに、普通だ……)
 一国の姫様が作った組織の建物なのだから、もう少しきらびやかなのかと思ったがそうでもなかった。さらに、蒼き英知と謳われるアルティエが関わっているのにもかかわらず、魔導的な施しがされている箇所がほとんど見受けられない。本当に、ごく普通の役所の造りだった。
 そうこうしているうちに、ティーノは応接室に通された。
「ええと、こちらにおかけになってお待ちください……」
 ティーノを部屋にとおしたイエマは、頭をさげて出ていった。
 ひとり残されたティーノは、ソファーへ腰かけることなく室内を見回す。
(ふむ、一見不審な点はないが、一応……)
 ティーノは荷物の中から、自作の魔導器チェッカーを取り出した。
 魔導石は絶えず細かな振動を繰り返しており、それが魔導器の動力源として利用されている。魔導器チェッカーは、その振動を検出する機能を持っているのだ。
 ただ、一般的に売られている魔導器チェッカーは比較的大きな振動しか検知できず、発信源の方向すら示せない。その点、ティーノ製は微細な振動にも反応し、ある程度発信源を突きとめる機能もある高性能な代物だ。
 これなら、盗聴用に使われる小型録音器でも、検知することができる。
(さて……)
 魔導器チェッカーにスイッチを入れて、壁面や備品にかざしていく。だが、ひととおりチェックしてみたが、反応は出なかった。
 どうやら、この部屋に録音器は仕掛けられていないようだ。
(団の中で悪さをする人間はいないって思ってるのか……)
 たぶん、団員を疑う真似はしないという、姫か団長の方針なのだろう。
 だがこれで、さらにやりやすくなった。この部屋でひととおりすませることができそうだ。
「っ……」
 コンコンと扉がノックされ、ティーノは慌ててソファーに腰かけた。
 一拍おいて、扉が開く。
「失礼する……」
 入室したのは、カレンひとり。イエマをお供に従えてはいないようだ。
(ま、そうだろうな……)
 たぶん、これから人に聞かれたくない話をするのだろうから、部下を同席させるはずがない。
「お待たせして、申し訳ない」
 武人らしくぴっと背筋を伸ばしたあと、正しい角度で頭をさげた。しかし、その顔はひどくやつれている。
(案の定、一睡もしてないな。それに、この匂い……)
 メスの分泌液の匂いがティーノの鼻をかすめた。たぶん、イエマに呼ばれる直前まで、オナニーに耽っていたのだろう。
「いや、大丈夫。イノセンシアの中なんてめったに入れないから、待ってる間も退屈はしなかったさ」
 内心笑いたくなるのをこらえながら、ティーノはそう返した。
「で、隊長さんの方こそ、大丈夫じゃないって聞いたが?」
「えっ?」
「部下さんから聞いたぞ。体調不良で休みを取ってるんだろ?」
「あ、ああ……そのことか……」
 自分の身体がどうなっているのか、早くもティーノに見透かされてたかと思い、思わず動揺してしまったカレン。しかし、それが勘違いだとわかり、にわかに恥ずかしくなってくる。
「休みを取ったのは……ただ、団長が気を回してくれただけで……自分としては……」
「ということは、体調的には問題ない?」
「そ、それは……」
 カレンは視線を逸らし、言葉を濁す。恥ずかしさでかあっと頬が熱く火照る。だが、自身に起きていることを告白しなければならない。
「そ、その……実は……」
「……実は?」
「き、昨日の夜から……す、少し、調子が悪くて……」
「調子が悪いってのは、どのように?」
「え、ええと……」
 際限なく羞恥心が膨らみ、言葉が途切れる。
(ダメだ……やはり、こんなこと言えない……くうっ!)
 とろけた粘膜がヒクヒクとうごめき、淫汁があふれだす。特殊スーツの股間を覆う内側のサポーターは、ちょんと指で突けばじゅっと汁が染み出す状態だ。
「あぁ……」
 なにかをこらえるような顔をして、カレンはティーノを見つめた。その瞳は、なにかを訴えかけていた。
(察しろってか……)
 もちろん、ティーノから助け船を出す気は更々ない。恥ずかしい告白を、カレンにさせるつもりでいる。
「媚薬屋なんてやってるが、病気に効く魔導薬もそれなりに調合できる。症状によっては、力になれると思うが……?」
「す、すまない……だ、だが……その……」
 見当違いな心配をされて、カレンはもどかしさを覚える。もちろん、ティーノはわざとやっているのだが……
「どうした? なにか言えない理由でもあるのか?」
「そ、そういうわけでは、ないが……うぅ……」
 察してほしいと、カレンは火照った顔でもう一度ティーノを見つめた。
 だが、ティーノは変わらずとぼけ続ける。
「……下痢でもとまらないとか?」
「げ……ち、違うっ!」
「でも、なにか漏らさないようにモジモジしてるように見えるが……」
「そ、それは……はっ、くぅ……」
 キューンと強い衝動が襲ってきて、カレンはぶるっと身体を震わせた。そして、ティーノの前だというのに、内股になって太腿をすりすりとこすり合わせてしまう。
(も、もうダメだ……)
 いよいよ追い詰められて、カレンは観念した。
「じ、実は……」
「……実は?」
「……び、媚薬が……抜けていないんだ……」
「……昨日の媚薬が中和されてないのか?」
「…………」
 羞恥に視線をさまよわせながら、カレンはためらいがちに小さく頷いた。
(そうとうテンパってるな……)
 屈辱の告白をしたカレンを、冷静な目で見つめるティーノ。この調子なら、相当無茶な要求をしても、従うに違いない。だが、これまで勝ち得た信頼を保ち続けたいので、高圧的な振る舞いは極力控えるつもりだ。
「うーん……昨日の中和薬が効かなかったとは、にわかに信じがたいが……」
「それは……じ、自分が、悪いんだ……」
「隊長さんが?」
「そ、そうだ……昨日、自分の症状を……っ……正確に、申告しなかった……ぅ……」
「つまり、昨日俺が中和薬の調合してる最中に、もう媚薬の症状が出ていたと……?」
「すまない……くぅ……」
 中和薬が効かなかったいいわけをカレンが先取りしてくれた。自分が悪いと思っているのなら、なおさら話は進めやすい。
「まあ、隊長さんの気持ちもわからないわけではないが……男にそんなことを申告するのは恥ずかしいだろうし……」
「ほ、本当にすまない……」
「いや、中和薬が効かなかった原因がわかって俺はすっきりしたよ」
「それで……うっ……自分は、どうすれば……あうっ……」
 太腿をモジモジとこすり続けながら、カレンは情けない顔でティーノに訊ねた。本当に、切羽詰まっているのだろう。
「……そうだな、まずは隊長さんもすっきりした方がいい」
「ど、どういうこと……?」
「一時的に、症状を抑える薬があるんだ」
「本当か?」
「ああ。部下さんの症状がぶり返してる可能性もゼロじゃなかったから、念のためにと思ってな」
 それはもちろんウソだ。端からカレンに使うつもりで持ってきている。
「さて、それじゃ早速はじめようか」
「はじめる……?」
「なにかおかしいか?」
「い、いや……飲み薬じゃないのか?」
「ああ、違う違う……ほら、こいつは塗り薬だ」
 ティーノは荷物から薬を取り出し、カレンの前にかざしてみせる。
「ぬ、塗り薬……って、まさか……」
「まあ、想像どおりの場所に塗る薬だ」
「っ……」
 さすがのカレンもショックを受けて言葉を失う。
(直接、あそこに塗らないといけないとは……)
 だが、この程度でティーノの羞恥責めが終わるはずもない。
「そのスーツ、横から指は入るか?」
「えっ?」
「指が入るなら、脱がなくてもいいんだが……」
「ちょ、ちょっと待った! まさか、おまえが薬を塗るつもりなのか?」
「そのつもりだが?」
「なっ……なにを言ってるんだ? じ、自分がそんなことを許すと思っているのか?」
「許すもなにも、素人が塗ると確実に失敗する薬なんだが……」
「そ、そんな……」
 愕然とするカレンを見て、ティーノが心の中で笑う。
(それだよ、おまえのそういう顔が見たかったんだ)
 ちなみに、ティーノの説明は当然のようにでまかせだ。薬は本物だが、誰が塗っても同じ効果を発揮する。
 だが、魔導の知識を持たないカレンにティーノのうそは見抜けない。
「まあ、隊長さんの気持ちもわかる。だから、少しでも恥ずかしさが軽減できればと思って、さっきの質問をしたんだが」
「…………」
「で、どうなんだ? 指は横から入りそうか?」
「は……入る……と、思う……」
 全身が煮えてしまいそうな羞恥に震えながら、カレンは消え入りそうな声でどうにか答えた。
 この答えによって、カレンは事実上、ティーノの行為を受け入れると表明したことになる。
「よし、それなら脱がずにこのままやろう」
 脱がないということで、ひとつハードルを下げて、カレンの心理的抵抗感を減らしてやる。ここまでくれば、あわててひん剥く必要はない。
(楽しみはあとに取っておこうじゃないか……)
 そんな思考をおくびにも出さず、ティーノは事務的な口調で、恥辱に震えながら立ち尽くすカレンに告げる。
「それじゃ、手を後ろに組んで、腰を落とすんだ」
「……えっ?」
「聞こえなかったか? 手を後ろに組んで、腰を落としてくれと言ったんだ」
「な、なぜ……?」
「ヘタに動かれると失敗するからな。ポーズはがっちり固定してもらわないと」
「…………」
 そう言われると、カレンはなにも言い返せなくなる。女にとって一番大事な部分を触られたあげく、失敗したら目も当てられない。
(ガマンだ、ガマンしろ……)
 繰り返し自分にそう言い聞かせるカレン。
 恥ずかしいのは気持ちの問題だけだから耐えられるはずだ。だけど、身体の方はもう限界にきている。ティーノの言うことを聞くしか道はないのだ。
「んく……」
 生唾を飲みこみ、覚悟を決めたあと、カレンは腕をうしろに回してしっかりと組み、中腰の姿勢を取った。
「こ、これでいいのか?」
「いや、もっと脚を開いてもらわないとうまく塗れないぞ」
「わ、わかった……」
 カレンはぎこちなく頷き、ゆっくり脚を開いていく。
「もっとだ」
「ああ……しかし……」
「やる以上は、少しでも成功率をあげたい。恥ずかしいだろうが協力してくれ」
 ティーノにそう言われると、媚薬の苦しみから解放されたいカレンは拒否できない。
「うう……」
 結局、カレンは激烈な羞恥に身悶えながら、肉体的な限界まで脚を開くことになった。
「よし、それでいいだろう」
 ティーノは納得したように頷いて、指定のポーズを維持しているカレンを舐めるように見回す。
(どうだ、あのカレンが俺の前で奴隷のポーズを取っているぞっ!)
 さすがのティーノも興奮してしまうが、カレンにきづかれるとマズい。ぐっと気持ちを抑えこんでソファーから立ちあがり、奴隷のポーズを取っている相手に近づいていく。
「えーと、はじめる前にいくつか質問するから、正確に答えてくれ、いいな?」
「…………」
 逆らう気力も削がれたカレンは、奴隷のポーズを維持したまま、こくりと頷いた。
「じゃあ……昨日の睡眠時間は?」
「……ない」
「そうか……だとすると、夜通しオナニーしてたわけだな?」
「っ……」
「答えてくれ」
「…………」
 極限まで真っ赤に染まった顔を、ぎこちなく頷かせるカレン。虚偽申告によって、今の状態を招いたと痛感してるだけに、ウソはつけなかった。
「やっぱりか……それで、今の今までで何回くらいイった?」
「そ、そんなの……数えてない……」
「おおよそでいいんだ、それで薬の量が変わってくる」
 相も変わらずティーノの話はうそっぱちだが、カレンはそれを看破できない。
 カレンにできるのは、そのインチキな問いに対し、くそまじめに答えることだけだ。
「た……たぶん……二十回……い、以上……」
「ということは、三十回まではイってないんだな?」
「そ、それは……」
「じゃあ、四十回は?」
「そ……その……ホントに、わからないんだ……」
 今にも泣きそうな、いや、目尻にはもう涙が浮かんでいるカレンが、震える声で答えた。
「なら、逆に聞くけど、何回まではイってないと言い切れる?」
「え、ええと……」
 そこで一旦言葉を句切り、視線を虚空にさまよわせながら……
「……ご、五十回は……ないと、思う」
 震え声で、カレンはそう答えた。
「なるほど……」
 もっともらしい顔でそう呟いたティーノだが、内心おかしくて仕方がない。
(いくら媚薬中毒とはいえ、五十回近くイクなんて、相当の好き者だぞ……)
 昨日に続いて笑い出しそうになるのをぐっとこらえて、質問を続ける。
「まあ、オナニーの回数はだいたいでいいが、次の質問は正確に答えてくれよ?」
「わ、わかった……」
「じゃあ聞くが……隊長さんは処女か?」
「えっ?」
「聞こえなかったか?」
「い、いや……」
 ティーノの問いは最初からわかっていた。だが、その情報が今回のことにどう関わるのか、カレンには理解できない。
「だ、だけど、そんなことまで、本当に答える必要があるのか?」
「厳密に言えば、ない」
「なんだとっ!?」
「ただ、こんなことで処女喪失するのはかわいそうかと思って聞いたんだ」
「えっ?」
「基本的な塗り方だと、十中八九処女膜が破れてしまうんだ。だが、最初から処女だとわかっていれば、傷つけないように塗ることもできる」
「だ、だったら、最初からその方法でやれば……」
 こう言ってる時点で、自ら処女であると暴露してるようなものだ。だが、はっきりとカレンの口から告白させたいティーノは、気づかぬふりをして話を続ける。
「時間が三倍以上かかるんだよ。隊長さん、あんまり余裕ないみたいだし、処女じゃないなら普通のやり方で塗った方がいいと思ってな」
「っ……」
「と、いうわけだから、処女かどうか教えてほしい」
「…………」
 ティーノが興味本位で訊ねているわけではないと理解できたが、やはり自分の秘密を明かすのはためらわれる。
(しかし、言わなければ……)
 イノセンシアに入ると決めたとき、女を捨てると心に誓った。普通の女の子らしいあこがれや夢も全部封印した。だが、こんなことで処女を喪失してしまうのは、どうにもこうにも悲しすぎる……
「自分は……その……」
「……その、どっちなんだ?」
「え、ええと……しょ、処女、だ……」
 震えながら、消え入りそうな声で、カレンはとうとう処女だと告白した。
 他人に、しかも、昨日知り合ったばかりの媚薬屋に、大事な秘密を明かしてしまった恥ずかしさはこの上ない。
 そんなカレンの姿を楽しみつつ、ティーノは変わらず事務的な態度で話を進める。
「ふむ……それなら、膜を傷つけないやり方で塗ろう」
「た、頼む……」
「ただ、さっきも言ったように、時間はかかるぞ。塗ってる間、そのポーズをしっかり維持するんだ、いいな?」
「わかった……」
 媚薬でとろけている身体をどうにか引き締め、カレンはポーズをしっかりと固定する。
「……よし、それじゃはじめるか」
 奴隷のポーズを取るカレンをもう一度舐めるように眺めたあと、ティーノは薬ビンのふたを開けた。
 右手の中指で少量の薬をすくい、その指先をカレンの鼻先にかざす。
「この分量が一回分だ。これをゆっくり丁寧に、数回塗っていくからな」
「ああ……」
 ティーノはぎこちなく頷いたカレンの前にしゃがみこむ。そして、ピンと張っている白い太腿を左手で押さえた。
「ひぁっ……」
 ティーノが触れた瞬間、引きつった声をあげ、きゅっと眉をたわめるカレン。これからはじまる行為を思うと、自然に恐怖が迫りあがってきてしまい、身体が小さく震えはじめる。
(こうなってしまえば、鬼の三番隊長もただの小娘だな……)
 だが、ただの女としてみれば、カレンはかなり上玉の部類に入る。きちんと着飾り、娼婦として売り出せば、高級娼館でナンバーワンを獲れるレベルだ。
 もっとも、ティーノはカレンを堕としたあとも、娼婦にする気はさらさらない。自分専用のドールとして、とことんかわいがってやるつもりだ。
「さあ、動くなよ……」
 ドールとなったカレンの姿を思い浮かべながら、ティーノは恥丘を覆うスーツの上に右手をかぶせる。
「あっ、んっ……」
 スーツの上からとはいえ、そんな場所を男に触られるのははじめてあり、カレンは恥辱に震える。だが一方で、媚薬に冒された美肉は微細な刺激にも反応し、キュンと熱くうずいてしまう。
 そんなカレンの反応を楽しみながら、ティーノは薬の乗っていない人差し指の腹を使い、布地の上から縦スジに沿って、すりすりとこすっていく。
「んあっ、やっ……んんっ、ああんっ!」
 愛撫を欲していた秘苑が勝手に反応してしまい、カレンの口先から悩ましいあえぎ声があふれでた。しかし、中途半端な刺激に、もどかしさが増していく。
「あっ、ああん……な、なぜ……そんな……んあんっ!」
「準備運動が必要なんだよ」
 適当なことを言って、ティーノはスーツの上から淫裂をこすり続ける。
「し、しかし……んっ、あああっ、いやぁ……あああんっ……」
 ぶるっ、ぶるっと、カレンは二度ほど強く身体を震わせた。もっと強い刺激がほしいと子宮が訴えているのだ。
「どうした?」
「ああっ……んっ……いやぁ……ああっ、くぅっ……」
「恥ずかしがる必要はないんだぞ?」
「で、でも……あっ、んっ、ああっ、はううううっ……」
 こらえきれずに、自ら腰を動かしはじめたカレン。ティーノの人差し指がより食いこむように、くいっ、くいっと前後に身体を揺らしている。
 奴隷のポーズでそれをやっているのだから、端から見ればずいぶんいやらしい行動を取っているのだが、カレンにはそんなことに頭を回す余裕などなかった。
「なんだ、ガマンできなくなったのか?」
「ち、違うっ……違うんっ、ああああっ、ひっ、あっ、はああんっ!」
 否定するそばから、ビクビクと身体を痙攣させて、カレンはあられもない声をあげた。股間を覆うサポーターは淫汁を吸収しきれなくなり、イノセンシアスーツの表面もべっとり濡れはじめている。
「違うのか? ガマンできなくなったら準備運動は終わりなんだが」
「ああああ……そ、そんな……」
 いまだに残っている小さな理性が、カレンを苦しめる。
(ガマンできなくなったなんて……い、言えるはずが……)
 ためらう間にも、美肉は愛撫を催促するように、じゅくじゅくと熱くうずき続けている。
「ああんっ、いやぁ……んっ……ああっ、だめっ……あああああっ……」
 心と身体の板挟みになって、悶え苦しむカレンに……
「大丈夫だ……」
 意外にもティーノは、優しい言葉をかけた。
 だか、それも一瞬――
「今のおまえは普通じゃない! 今抱えてる劣情は、全部媚薬のせいなんだっ!」
 ティーノは急に態度を変えて、けしかける感じでカレンに訴えた。
「カレンはもっと素直になっていいんだっ! 誰も責めたりしない、もちろん俺もだっ!」
「――っ!?」
 ティーノの言葉にカレンはぷるっと身体を震わせた。
 次の瞬間――
「あ、ああぁ……」
 カレンはすべてが許されたような気分になった。ティーノに呼び捨てされたことなど、まったく気にしていない。
「さあ、どうしてほしい……?」
 ティーノが再びやさしくささやきかけると、もうカレンは抗えない。
「……な……中に……ゆ、指を入れてぇ」
 極限まで顔を朱に染めて、カレンは恥辱のお願いを口にした。
(堕ちたな……)
 一度坂道を転がりはじめた石は、そう簡単にとまらない。これからカレンは、媚薬をいい訳にして、どんどん堕ちていくだろう。
「わかった。ではカレン、次の段階に進むぞ?」
「は、早くぅ……」
 ひとつ枷がはずれたカレンは、やはり呼び捨てにされたことも気にせず、ティーノを誘った。上下に揺さぶる腰の動きも大胆になっている。
「じゃあ、一度腰をとめろ」
「――っ!」
 反射的に、カレンはぴたっと腰をとめた。そして、これまで淫らな動きを続けていたことに気づく。
(じ、自分は……なんてはしたないことを……)
 どうしようもない羞恥が込みあげてくる。だが、それは媚薬のせいだとティーノに認めてもらっている分、いくらか気持ちが軽い。
「よし、いくぞ……」
 覚悟を促して、ティーノはスーツの脇へそっと指を差し込む。
「あっ、やっ……んああっ!」
 ぬかるんだ秘苑の入り口に指先の感触が伝わると、カレンはぶるっと大きく身体を震わせた。
(と、とうとう……男に、触られたっ……)
 女にとってもっとも秘めやかな部分を、ティーノに暴かれた恥辱がカレンの胸を焼く。だが同時に、渇望していた直接的な刺激を得て、たまりにたまったもどかしさが、一気に快感へ転じた。
 そして、ティーノの指は、カレンの内側へは向かわず、そのまま粘膜の表面を駆けあがっていく。
「んっ、あっ……はっ……ひああああああああああああっ!」
 指先が膨張しきった突起に触れた瞬間、カレンはこれまでで一番大きな声をあげてぐっと喉を反らした。
「おいカレン、そんなに大声出して大丈夫なのか?」
「やっ……んんっ……ふっ、むっ……」
 あわてて口をつぐむカレン。しかし、湧きあがる快楽を抑えきることはできず、唇の隙間から情感あふれる切なげな吐息がどうしても漏れてしまう。
「まあ、外に気づかれない程度に頼むぞ」
「んんっ……ふあっ、くっ……んあっ……ひむっ……」
 真っ赤な顔をなんとか頷かせるカレンだが、あえぎ声は殺しきれない。もっとも、応接室の壁もドアもそう薄くはないので、悲鳴でもあげない限り、外に漏れることはないのだが……
「それじゃ、まずはこいつの膨らみを抑えないとな」
 相変わらず適当なことを言って、ティーノはクリトリスをコリコリと刺激する。
「んああっ、むっ……ふっ……んっ、ひうっ……んあんっ、ふむっ……」
 ビリビリするような快感を味わいながら、カレンはあえぎ声をあげてはかみ殺すという動作を繰り返す。だが、次第に抑えが効かなくなっていく。
「ああああんっ、んっ……んあっ、ひうっ、むふっ……んっ、ああっ、あああんっ、あはあああああんっ!」
「そんなに気持ちいいのか?」
「んんんっ……ああんっ……ちがっ、ひあんっ、んんっ、あああああんっ!」
 わずかに残った理性が羞恥心を生み、それがカレンに快楽を否定させた。
(ち、治療なのに……感じてるなんて、し、知られたら……)
 だが、ティーノはカレンの心境などお見通しだ。
「カレンは媚薬にやられてるんだから、ガマンしない方がいいぞ」
「ああっ、んんっ……ああんっ!」
 媚薬という免罪符を思いだし、カレンの負の感情がすーっと消えていく。
(そう、だ……これは、媚薬のせい……だから……)
「どうだ、カレン、気持ちいいのか?」
「んんっ……ふああっ……い……いいっ……んっ、あああんっ、気持ちいいいっ!」
 快楽を認めた瞬間、これまでとは違う快感が、ぞくぞくと背筋を走り抜けた。だが、それの正体を吟味する時間も思考能力も、カレンには残されていない。
「あっ、あっ、あんっ、いいっ、気持ちいいっ……んああああんっ、気持ちいいっ、そこ、そこっ、そこっ、そこおおおっ!」
 巧みに指の腹で肉芽を転がすティーノのテクニックに翻弄され、カレンは完全に快楽の波に飲みこまれた。奴隷のポーズをとったまま、ビクンビクンと全身を痙攣させる。
「ほーら、これも感じるだろ?」
「感じっ、感じるっ……んあああっ、それっ……んぁっ、すごっ……んああああっ、すごいひいいいいいいいいっ!」
「こうするとどうだ?」
 ぐいっと突起を包皮に押しこむ感じで、小刻みに指先を震わせる。
「ひっ、はっ、ふっ……んんっ、あっ、あんっ、いっ、いいっ、いいっ、いいっ、いいっ、ああっ、いいっ!」
 クリトリスの刺激に合わせて、カレンはぶつ切れのあえぎ声を、連続して漏らした。さらに太腿の痙攣も派手になり、全身がきゅーっと硬直していく。
「イクのか? カレン、イクんだろっ?」
「あっ、んっ、そんな……いやっ……んんっ、あんっ、いいっ、あああんっ!」
「大丈夫だ、イクのは媚薬のせいなんだから」
「ああっ、んっ……そ、そう……媚薬のせい……媚薬の……あああっ、んっ、ふっ、ひあっ、あああああああっ!」
 全てを媚薬に押しつけて、カレンは押し寄せる激流に身を任せる。
「ほら、イクんだ、カレンっ、イケっ!」
 トドメとばかりにティーノが強く肉芽を弾いた瞬間――
「あああああっ、イクっ、イクぅ……あああああっ、イっちゃううううううっ!」
 カレンは奴隷のポーズを保ったまま、ガクガクと腰を上下させて、恥辱のアクメを迎えた。

 それからも、治療と称した愛撫は続けられ――
「あああああああっ、イクうううううううっ、またイクうううううううううっ!!」
 カレンはふた桁を超える絶頂を迎え、真っ赤な顔を震わせた。
 そんなカレンを、ティーノは冷静な目で見つめていた。
(……さすがは、三番隊長ってことか)
 これほどの快楽漬けになれば、普通は途中で体力が続かなくなり、奴隷のポーズは崩れるのが普通だ。だが、カレンはここまでしっかりとその淫らな格好を取り続けている。さらに、昨夜は一睡もしていないのだ。よほど鍛えてなければこうはならない。
「んっ……はっ……ふあぁ……んっ……んん……」
 カレンは、小刻みに吐息を漏らしながら、うっとりと絶頂を味わっている。媚薬のせいだという免罪符もあって、途中からは治療だという名目も忘れ、純粋にティーノの愛撫を楽しんでいた。
「んんんん……んっ……はあああああぁぁ……」
 絶頂から降りてきたカレンが、大きな吐息を漏らした。
(そろそろ……か……)
 カレンの様子を見て、ティーノは指をゆっくり引き抜いた。
「んああんっ!」
 瞬間、ビクンと身体を震わせて、あられもない声をあげるカレン。だが、そこから次第に理性が戻っていく。
(あ、ああ……自分は……)
 これまでティーノ相手に晒した痴態を思い出し、カレンは赤かった顔を青くさせていく。もう、ティーノの顔を見ていられず、顔を背けた瞬間――
「薬が効いたようだな」
「えっ?」
「いや、だいぶ正気を取り戻したように見えたんだが」
「――っ!」
 ティーノに指摘されて、あらためて気づくカレン。
(そ、そうだ……身体は、もう……)
 奴隷のポーズを解き、カレンは自身の状況を確認する。秘奥の熱はなくなり、すっきりとした気分になっていた。
「どうだ? 薬は効いたか?」
「あ、ああ……」
「そうか、よかった」
「っ……」
 笑顔でよかったというティーノを前に、カレンはどうしようもなく恥ずかしくなった。
(向こうは、純粋に治療してくれたのに……自分は……自分、は……)
 いくら媚薬に冒された身体とはいえ、あれほどの痴態をティーノに晒してしまった事実が、今更ながら重くのしかかってくる。
 しかも、ティーノはそんなことがなかったかのように、爽やかな笑顔を向けてくるのだから、余計につらい。
 だからと言って、変態女などと罵られたら、確実に憤慨してしまうが……
「で、このあとのことだが」
「あ、うん……」
「今塗ったのは、あくまでも一時しのぎの薬だってのは、最初に説明したよな?」
「ああ……」
「薬が切れたら、再びうずきだすはずだ。悪いことに、今後は今の薬が効かなくなる」
「なっ、なんだって?」
「身体に巣くった媚薬が急速に耐性を作り出す。たぶん、明日には効かなくなるだろう」
「そんな……」
 愕然とするカレンを見て、ティーノは密かにほくそ笑む。
(バカが、完全に信じてやがる)
 もちろん、そんな気持ちは一切表に出さない。カレンを自分のアジトに連れ出すまでは……
「だが、そんなに心配しなくていい。ちゃんと解毒する方法はある」
「そうなのかっ?」
「ただ、時間がかかるぞ」
「どのくらいかかるんだ?」
「そうだな……一週間くらいか」
「一週間も……」
「言っておくが、通いながらとかはダメだからな」
「えっ?」
「完全に媚薬を抜くには、一週間、俺のラボにこもる必要がある」
 本当は三、四日の予定だったが、イエマの話を聞いて一週間に変更した。半年も働き詰めなら、一週間くらいの休暇は取れると思ったからだ。
 三日あればドール改造を施すことは可能だが、どうせなら時間をかけて、カレンをレベルの高いドールに仕上げてみたかった。
「そ、そんな……無理だっ、そんなに休めるはずがない!」
 昨日は早退し、今日は丸一日休養している。カレンとしてはこれ以上、休むわけにはいかなかった。
 だが、ティーノも引くつもりはない。
「んー……無理だと言われても、俺にはこれ以上短くする腕がない」
「……と、いうと、他にできる人間がいる……?」
「そうだなぁ……レベルの高い魔導士なら……そう、ここの団長とか……」
「――っ!」
「フェジタリアの蒼き知性と言われるその才能は我が国随一。しかも、魔導庁から純度の高い魔導薬は回ってくるわけだし……」
「…………」
 一瞬、アルティエにお願いするという考えも浮かんだが……
(だ、だめだ……団長にこんな話などできるはずがない……)
 誇り高きイノセンシアの隊長であるという思いが、それを打ち消した。無様にも、媚薬に冒されてしまったなどと、団には絶対に知られたくない。
 ティーノもそれがわかっていて、わざとアルティエの名前を出したのだ。
「どうする? 団長にお願いするか?」
「……それは、無理だ。団長も忙しいお方だから……」
「そうか。しかし、そう言われると、まるで俺が暇そうに聞こえるが」
「えっ? い、いや、決してそういう意味では……」
「本当のことを言うと、俺は明日から魔導触媒を買い付けに、外国へ行く予定なんだ」
「あ、明日からっ?」
「そうだ。出たら一週間は帰ってこないぞ」
「一週間も……」
「その間に、さっき塗った薬は切れて、またうずき出すのは確実だ」
「っ……」
 カレンの頬に、冷や汗が伝う。
(あ、あれはもう、絶対にイヤだ……)
「というわけだから、もし、俺に治療を任せるつもりであれば、早急に決断してくれ。今ならまだギリギリ外国行きはキャンセルできる」
「い、いいのか……?」
「一応乗りかかった船というか、初期治療に失敗した責任も感じているからな」
「す、すまない……本当に……」
 男の義を感じ、カレンは心の底から感謝した。
 だがもちろん、すべてはカレンに恩を売るためのウソ話だ。そして、押し売りした恩を回収するための無茶振りをはじめる。
「ただ、やる以上は、今度こそ完璧にやり遂げたい。だから、一週間の期間が必要だ」
「っ……」
「今から上にかけあって、一週間の休暇を取ってきてくれ。それが、治療を引き受ける条件だ」
 ドールに改造したカレンを、ただの愛奴として自分のそばにおいておくのなら、休暇を取らせる必要はない。勝ち得た信用を元に適当な理由をつけて自分のアジトまで連れ出せばいいだけだ。
 しかし、この女はスパイとしてイノセンシアに戻すつもりなので、しばらくカレンが姿を消しても、ここの連中に不審を抱かれないようにしないとならない。
 そのためには、どうしてもカレンに休暇を取ってもらう必要があった。
「どうだ? むずかしいか?」
「…………」
 そこで、カレンは押し黙り、考えるような仕草を見せる。
(たぶん……休暇は、とれるはず……)
 実は、アルティエに今日も休むようにと言われたとき、少し長めの休みを取るよう勧められていたのだ。そのときは断ったが、今から申請しなおせば、たぶん休暇は取得できるだろう。
 あとは、こんなことで長期休暇を取るという罪悪感との闘いだが……
「……わ、わかった。団長に、申請してみる」
 さほど長考することもなく、カレンは休暇申請することを承諾した。
 期間短縮をお願いしたい気持ちもあったが、カレンはそれを口にしなかった。予定を変更して自分の治療を優先してもいいと言ってくれている相手に対して、これ以上譲歩を迫るのはあまりにも厚かましいと考えたのだ。
「じゃあ、早速今から行ってくれるか?」
「わかった。しばらくこの部屋で待っててもらえないだろうか?」
「了解した」
 頷いたティーノを残し、カレンは部屋を出ていった。

 それから、待つこと十数分――
「……お待たせした」
 カレンが応接室に戻ってきた。
「どうだった?」
「……一週間の休暇をいただくことができた」
「そ、そうか、それはよかった」
 満額回答に、さすがのティーノも笑みをこぼす。
「それで、このあとどうすれば……?」
「いったん別れて外で待ち合わせしようか?」
「外で……?」
「他の団員の目もあるから、ふたり一緒にここを出るのはあんまりよくないと思ったんだが」
 一度別れるのはリスクになるが、それ以上に自分たちが一緒にいるところをできるだけ他人に見られたくない。のちのちカレンはスパイとして働き出すことになるが、その活動に失敗すれば、なんらかの嫌疑をかけられるだろう。
 そのときにカレンと通ずる人間として、媚薬屋ヴァレンティンが浮上する可能性をできるだけ小さくしたいのだ。
「……そうだな、そうしよう」
 ティーノの思惑など知るよしもなく、カレンは頷いた。
「じゃあ、七番街の噴水広場で待っている」
「わかった」
 約束を交わして、ティーノはイノセンシアを後にした。