ブラックルシアン300ダウンロード記念SS
2018/10にリリースするダーティマザーに繋がる物語です。
うまくリリース物に含まれていなかったので、
急遽、こちらで発表させて頂きます。
熱い。空調の効いていない執務室の熱さに意識を取り戻す。どうやら、俺は執務室の机で意識を失ったように眠っていたようだ。覚えていた時間は20時、今は24時。4時間ほど眠りこけてしまったらしい。
いつもの様に、足元に控えている俺のイヌはいない。4日前、俺と外で待ち合わせをしていたがあいつは現われなかった。周囲の監視カメラの情報からして、拉致された可能性が高い。それも、あいつが攫われるくらいだ。万が一のためにあいつにつけておいた発信機もすぐに外された所を見れば、プロの仕業だろう。
空調のスイッチをオンにして、俺はスマートフォンに目を落とす。連絡は1本。公安内にいる協力者からだ。やっと連絡をくれたらしい。
「アンタのイヌについての足取り情報はこちらには一切ない。一切ないってことは、そういうことだ。こっちも探し回っている。関わるなら、死ぬなよ」
イヌの古巣の公安はイヌと俺がこの国にいる以上、目を離すことはないはずだ。しかしながら、イヌの足取りについての情報が一切ないと言うことは、居所を消失(ロスト)したということだ。裏を返せば、今回の拉致に公安は関係ないのだろう。
そもそも、俺をこの国から追い出したい公安にとっては、イヌが居なくなることは損であって得になることは一切ない。
鼓動が上がる。吐き気がする。ここ4日、まともにモノを食っていない。そんなことはどうだっていい。足元にイヌがいない。それがこんなにも精神に狂いをきたすものだとは。俺自身も思わなかった。
直近3日の間、裏社会、表社会共に持てる人脈の全てを使って、イヌの足取りを探した。裏社会については今回はシロだ。俺はこの国から手を引く。その販売ルートの株分けをしてやった暴力団がそのあたりを調べてくれた。
利害の一致をしている間の奴らは、信頼していいはずだ。
「ならば、どこにいる」
PCを開く。疲れ果てた俺がメールボックスを開いた瞬間、宛名もサブジェクトも空白のメールに気付く。それをダブルクリックして開けば、1枚の画像が添付されていることに気付く。
そこには、何人かの男に群がられている、裸のイヌが映り込んでいた。男たちの顔は映っていない。だが、これから何が始まるかなんて、分かりきった光景だった。
『続きはコチラ』と馬鹿にするように書かれたURLをクリックする前に、俺は電話を手にする。自分のサイバー班の部下にだ。3回コールすれば、寝ぼけたような女の声が聞こえる。
「あ、ボス。どうされましたぁ」
「お前に解析してほしいものがある。今からメールを転送する。どこの誰がこんなものを差し出したか、特定しろ。一両日中だ」
「はぁい、それじゃ、ボス。分かり次第連絡しまーす!」
電話は向こうから切られる。——どこの誰が、こんなことをしたのか。
「俺に喧嘩を売ったんだ。——落とし前は、付けてもらおう」
ただ、静かな声が部屋に響く。俺の腹の中で、怒りだけが渦を静かに巻いていた。